2022年9月14日に開催された（公）化学工学会第52回秋季大会シンポジウム「CVD/ALD・ドライプロセス −構造・機能制御の反応工学−」（当分科会主催）にて発表された11件の講演から，優秀な発表をされた下記の若手研究者の方に，CVD反応分科会奨励賞を授与することを決定致しました。2023年3月15日に開催された（公）化学工学会第88年会CVD反応分科会オーガナイズドセッションにおいて授賞式を行いました。本奨励賞の規約につきましては，こちらをご参照ください。

化学工学会反応工学部会CVD反応分科会
令和4年度 奨励賞

若手奨励賞

化学気相成長(CVD)・原子層堆積(ALD)などの気相製膜プロセスでは，原料に金属錯体を用いることが多く，最適ケミストリの効率的決定に向けて金属錯体の蒸気圧を予測する計算手法が求められている。COSMO-SAC法は，第一原理計算を用いて分子の液相での熱力学的物性を予測する手法であり，上記への応用が期待できるが，中心金属原子の経験的計算パラメータ―ε_dspを算出する手立てがなく，蒸気圧予測には至っていない。佐藤氏は，第一原理計算により求めた金属錯体の物性を使用し，ε_dspを非経験的に予測する手法を構築した。この手法により，カルボニル基やシクロペンタジエニル基など，中心金属に炭素原子が配位した錯体の蒸気圧を中心金属の種類によらず倍半分の精度で計算できることを示した。一方，βジケトン基やアミディネート基など，酸素原子や窒素原子が配位する錯体にはずれが見られるが，気化熱の過大評価が原因であることを突き止めており，この点を解決することで多様な原料の精緻な蒸気圧予測が可能であることを示した。本研究は長きに渡り困難とされていた金属錯体の蒸気圧推算を可能にする道筋を示しており，反応工学における学術を大きく前進させた。また，新規原料開発を含む最適ケミストリの効率的決定による製膜プロセスの速やかな高度化への貢献が期待される。以上，CVD反応分科会奨励賞に相応しいと判断し，若手奨励賞に推薦する。

学生奨励賞

単層カーボンナノチューブ（単層CNT）は，エレクトロニクス，電池材料，軽量導線など多様な応用が期待されているが，合成の質・量の進化が実用上の課題である。炭化水素等を原料に，ガス中に浮遊した金属ナノ粒子触媒を用いた化学気相成長(CVD)法により，高結晶性・高導電性の単層CNT合成が実現されたが，生産性の低さが課題である。グループではCVD温度よりも高温の微小ヒーターで触媒原料を急速に加熱分解してCVD原料と混合する方法で，触媒を高密度に発生してCNTの生産性を大きく向上したが，出口のフィルターがCNTで閉塞することが課題であった。近嵐氏は，反応場出口にノズルを設置し出口ガスをポンプで吸引することで，CNTを回収する方法を開発した。この際，反応場に影響を与えないように下流にN₂ガスを追加供給し，全てのCVDガスと一部のN₂ガスがノズルで吸引され，残りのN₂ガスが併設した反応器出口フィルターから排出される構成とした。この方法により，走査型電子顕微鏡およびラマン散乱分光法による分析でCNTの構造と質を維持したまま，CVDの連続運転時間3倍とCNT収量の2倍の向上を実現した。一方で，微小ヒーター内部が触媒原料分解物により徐々に閉塞するという課題が顕在化し，その解決が連続合成実現に重要であることを示した。本研究は，触媒ナノ粒子の核発生とCNTの触媒成長という複雑なCVD反応場への影響を抑えつつCNTの連続回収を実現したものである。反応場と流れ場の制御を両立した好事例と言え，CVD反応分科会奨励賞に相応しいと判断し，学生奨励賞に推薦する。

また，奨励賞に選ばれた2件の発表の次に評価の高かった以下の発表も，その功績を称えるために次点としてここに掲載します。